本多都さん

2018-05-06

こんにちは。 中学生から声楽を習い始め、音大、大学院へ進学し、現在も研鑽を積んでおります、本多都と申します。この記事が誰かの参考になるのであれば幸いです。

声楽を勉強し始めたきっかけ

中学1年生の時に、地元主催の町民ミュージカルに参加しました。その時に歌唱指導をしてくださった先生が、参加者の歌のパートを決めるために一人ずつ声質をチェックされたのですが、そこで「メゾソプラノ(注1)だね。珍しいから声楽を勉強してみない?」と声をかけてくださいました。何が何だかわからなかったのですが、母とも相談してせっかくだし...ということで、そこから声楽のレッスンを受け始めました。

東京芸術大学を受験した理由

町民ミュージカルに参加するようになってから、東宝や劇団四季などのミュージカル作品を見に行く機会が増えました。特に、「レ・ミゼラブル」を見たときに衝撃を受けたのを今でも覚えています。場所は中日劇場で、カーテンコールではスタンディングオベーションが起きました。そんなの生まれて初めてでした。そして割れんばかりの拍手を受けているキャストの皆様を見ている時に、無謀にも「この拍手を受ける側に立ちたい。舞台から客席を見たい。」と思ってしまったんです。その後に迎えた町民ミュージカルの本番で、カーテンコールでお客様の拍手を受けた時、やはり想像以上の充足感に満たされました。これが決定打になって、最初は「ミュージカルに出たい!」と思うようになりました。ちょうど声楽の勉強もし始めていましたし。その旨を打ち上げの席で母が演出家の先生に相談したところ、「ミュージカルに出たいなら東京に行かなきゃだめだよ。」と言われたそうです。

そこからはシンプルで、声楽=音大受験、経済的に私立は無理だったので、東京で残っている選択肢は、国立の東京芸術大学しかありませんでした。これが中学1年生の終わり頃だったと思うので、芸大受験を決めるタイミングとしては、普通の人よりは早いほうかなと思います。

普通科高校での生活

芸大を受けると決めていたので、高校も音楽高校を受験してもよかったのですが、中学の時は勉強も頑張っていたので、声楽の先生からも普通科高校を勧められ、結局中学生の時は声楽よりも勉強を頑張り、普通科の進学校を受験しました。

無事に志望校に合格してからは、完全に芸大受験に頭を切り替え、高校での勉強は本当に手を抜いていました。芸大の声楽科はセンター試験が国語と英語だけなので。英語はもう少し勉強しておけばよかったと今になって後悔しています。

勉強だけでなく行事も全力で取り組む友人たちや、理解ある先生方に囲まれ、本当に楽しい高校生活を送ることができましたが、音楽高校に進学した人達に比べると、ソルフェージュ(注2)の勉強時間はどうしても足りなかったと思います。結局芸大の3次試験のソルフェージュはボロボロでしたし。

情熱が感じられないと言われる

先生の紹介で、東京芸術大学で教授を務められているアルトの先生にレッスンをしていただけることになり、高校1年生の終わりに、初めて東京にレッスンに行きました。とても緊張したのをよく覚えていますし、東京の先生もあの時のことは未だに覚えてくださっているそうです(笑)。そして、私の歌には情熱が感じられない、と言われました。確かにダメダメな歌でしたが、やはりショックでした。

日本声楽家協会でのセミナー

東京のレッスンで手厳しいお言葉を頂戴した後も、楽しく高校生活を送っていましたが、周りに音大を受験する人がいないという環境は、想像以上に大変でした。みんなは勉強を頑張っているのに私は歌の練習を頑張る、というのはなかなかモチベーションが上げられませんでしたし、自分が同世代の中でどのくらいの実力なのかわからないというのは、不安でたまりませんでした。そんな時に、日本声楽家協会主催の、東京芸術大学を受験する人向けのセミナーの存在を知りました。高校3年生の時です。夏休みに東京で5日間ひとりで過ごす、というのは初めてのことでしたが、参加して本当によかったと思います。同じ大学を目指す友人ができましたし、何より、今まで自分がレッスンを受けてきたことは、ちゃんと身になっていることを感じることができました。それまではよくわからないまま頑張っていたことが、すごくクリアになって、そこからはずっとモチベーションが維持されていたように思います。もともとかなりの負けず嫌いでしたし。

芸大受験当日

直前までは本当に緊張し、ナーバスになる日々が続きましたが、いくつか名言を頂戴したので、それで自分を鼓舞することができたように思います。一つ目は、受験直前にお世話になった楽典の先生のお言葉です。「第一線で活躍されている教授の方々に自分の歌を聞いてもらえるなんて、受験生が本当にうらやましい。」と言われ、そういう考え方があるのか!と衝撃を受けました。もう一つは、とにかく沢山の方々から応援されていたので、ついに母から「こんなに沢山の人に応援されているのに、緊張してボロボロの歌しか歌えなかったら、申し訳ないと思わないの!?」と渇を入れられたことです。これは最後まで私を支えてくれた言葉でした。

1次試験はホールが狭く、審査の先生方が近かったこともあって、やや歌が硬かったように思いましたが、自分が選択した課題曲の中でも一番好きな曲が当たったので、これは運が良かったです。2次試験は、当時は奏楽堂という芸大で一番大きなホールで歌わせていただけたので、声がよく響いて気持ちよくて、なんだかすごくのびのびと歌えたことを今でも覚えています。うって変わって3次試験は、苦手なソルフェージュの試験のオンパレードだったので、とにかくボロボロでした。それでも合格できたのは、2次試験でちゃんと歌えていたからかもしれません。芸大は3次試験から合格発表の日までの期間が長く、精神的に本当に地獄なので、皆さんはぜひきちんとソルフェージュを勉強して、3次試験に挑んでほしいです。

芸大生活

もともとミュージカルが好きで、ミュージカルに出たくて芸大を目指したのですが、実は芸大に入るまでは、ミュージカル好きの友人、というのは一人もいませんでした。芸大に入ってようやく、ミュージカル好きな友人ができたんです。ミュージカルの話を誰かとできるのは生まれて初めてで、すごく嬉しかったです。

嬉しかった一方で、自分の将来についても悩み始めることになりました。ミュージカルに出たい気持ちで芸大に入りましたが、東京芸術大学はクラシックを学ぶ場なので、芸大にいるだけではミュージカルに出られないと思いました。今は、「ミュージカルエクスプレス」というサークルがかなり人気を得ているので、また少し環境が違うと思いますが...とにかく当時は、ミュージカル好きの友人達と自主企画で、芸祭や新歓などでミュージカルガラコンサートなどの公演を行いました。でも公演を終えるたびに、自分がいかにミュージカルの訓練を積んでいないかを思い知らされました。ミュージカルを目指して歌唱やダンスの訓練を積んできた友人に比べて、あまりにも私はクラシックの声楽の勉強しかしてこなかったのだと痛感しました。

そんな感じで、ミュージカルなのかクラシックなのか、迷っている日々がしばらく続いたと思います。3年生にもなると、芸大の大学院を受けるかどうか、といった話題もよく上がるようになるのですが、それも迷っていました。

オペラ科の定期公演

芸大の声楽科は、大学院で初めて、オペラ専攻とソロ専攻に分かれます。そして声楽科の学部3年生は、ほとんどの人が大学院オペラの定期公演に合唱で参加します。これは私にとって大きな転機でした。大学院の先輩方の歌唱があまりにも素晴らしく、カーテンコールではその先輩方の背中を見つめていたのですが、その背中が本当に格好良くて、そこで、「大学院を受験しよう。オペラ歌手を目指そう。」と決意しました。

失敗した大学院受験 

4年生の頭に喉を壊し、夏にも再発したりと、9月の大学院受験に向けて、コンディションが不安定な日々が続きました。今思えば、曲目を決めるのも遅く、一つ一つの曲の完成度も低かったと思います。そんな状態だったので、不安でたまらない状態で受けた受験は、歌っていた時の記憶がほとんどありません。3次試験までは残っていたのですが、最終発表で私の番号はありませんでした。なんとなくわかってはいたのですが、それでも頭が真っ白になりました。

しばらくは本当に落ち込んで...いたかったのですが、10月は立て続けに本番があり、そうもいってられない状況でした。でもこれはありがたかったです。悩む暇が無かったので。それに次の大学院試験はまた1年後にやってくるので、あまり時間が無いと思い、とにかく次に向けて動き出さなければと思いました。

今度こそと挑んだ卒業試験

大学院試験の結果があまりにも悔しかったので、1月にある卒業試験こそは、悔いの無い歌を歌いたいと思いました。曲は、学部3年生の時に歌って大好きになった、オペラ「ウェルテル」の中の、シャルロッテの手紙のアリアを選びました。原作「若きウェルテルの悩み」を泣きながら読み、フランス語の先生に発音を指導していただき、既に退官されていた先生のホームレッスンを受けに行き...と、とにかくその時にできることは何でもやりました。そのおかげか、卒業試験ではアカンサス賞と同声会賞をいただくことができました。先生から結果を伝えられた時は、とにかく号泣しました。

実家で過ごした浪人時代

まだまだ自分は未熟だと思ったので、その事実を受け入れて、浪人中は実家の愛知に帰ろうと決めました。応援してくれる家族のもとで規則正しい生活をして、万全の状態で大学院受験に挑もうと思ったんです。

愛知の声楽の先生のレッスンには、通える限り通いました。学生の時とは違い、昼間にレッスンを受けることも多かったので、働いている両親に送迎は頼めず、そんな時は自転車で40分かけて先生のご自宅に通っていました。

全ての時間を受験準備に費やせたので、歌って、声楽史や語学の勉強をして、また歌って、という本当に贅沢な時間を過ごすことができましたが、SNSでは東京で活躍している友人達の近況が流れてきたり、高校の友人もほとんどが社会人になっているという現実に、寂しくなったり、両親への申し訳なさで押しつぶされそうになることもありました。そんな私を一切責めずに、むしろ誇りに思って応援してくれた両親には、ただただ感謝しています。

2度目の大学院受験

1度目の受験の時は、大学院受験に向けて頑張っていることをあまり周りに伝えていなかったのですが、私は周りに応援されないと力が出せないタイプなのだとつくづく思ったので、2度目の受験は、SNSで「今から試験です!頑張ります!」という旨を発信して、とにかくいろいろな人の応援パワーをもらって受験に挑みました。2度目の受験も当然緊張はしましたが、1度目とは精神状態がまるで違いました。しっかりと準備をしてきた、という自信と、応援してくださる周りの方々への感謝の気持ちを持って、その時に出せる全てを出し切りました。おかげで、今度こそ芸大の大学院に合格することができました。結果を見て、愛知に帰って、今度は嬉しくて一人で家で泣きました。

大学院、現在

大学院ではオペラ科に進学し、実践的な授業が増えました。1年生では、オペラの中のワンシーンを勉強します。そのシーンを作るのに、演出家と指揮者、ピアニストの先生が専属でついてくださり、稽古を重ねます。2年生では、実際に一つのオペラを半年かけて勉強し、定期公演で発表します。でも、私が合唱で参加した時に見た先輩方の背中には到底追いつけなかったな、というのが正直な感想です。2年間はあっという間でした。本当にまだまだ勉強が足りないと思うので、現在は東京二期会の研修所に通い、勉強を続けています。

最後に

思えば、町民ミュージカルのカーテンコールで味わった充足感がきっかけでこの世界に足を踏み入れましたが、勉強すればするほど、本番後に充足感を感じられるなんてありえないのでは?とも最近は感じています。できることが増えると、その次のできないことが新しく出現するんです。だから最近は常に、「あれができなかった。」という思いで溢れています。それが辛いかと言われるとよくわからなくて、とにかくもっと上手くなりたいという思いで、今は歌っています。ありがたいことに、いろいろなご縁で素敵な公演に携わる機会も増えてきましたが、まだ外部のオペラのソリストになれたことがないので、オペラの舞台に立てるよう、これからも精進していきます。

注釈
注1「メゾソプラノ」
一般にソプラノよりも暗めの声質をもち、声域はソプラノとコントラルトの中間にくる。
注2「ソルフェージュ」
西洋音楽の学習において、楽譜を読むことを中心とした基礎訓練のこと。
~本多 都(ほんだ みやこ)~

愛知県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞、同年春の「同声会新人演奏会」出演。同大学大学院修士課程音楽研究科声楽(オペラ)専攻修了。藝大オペラ第62回定期公演「コジ・ファン・トゥッテ」にドラベッラ役で出演。その他に、ベートーヴェン「交響曲第九番」、モーツァルト「雀のミサ」「レクイエム」などにアルトソリストで出演。近年では「ユーリ!!! on CONCERT」や「FINAL FANTASY 30th Anniversary Distant Worlds」などにコーラスメンバーとして出演し、クラシック以外にも活動の場を広げている。演奏活動の他に、青井陽治氏演出「石棺 チェルノブイリの黙示録」、「花咲く港」「SHINSAI theaters for japan in tokyo」等の朗読劇への出演や、イベントの司会等、東京と愛知を中心に幅広く活動を行っている。平成27年度 山田貞夫音楽財団奨学金受給。これまでに、天野久美、近藤惠子、伊原直子、川上洋司、服部容子の各氏に師事。

*カリキュラムや入試に関する内容は、当時の内容となっております。具体的な試験内容など、公式の受験要項を必ずご確認いただきますよう、お願いいたします。

最大級のオンライン音大受験スクール

受験準備は、スマホ1つで始められる。

「あこがれの音大受験の準備をしたいけど、一体いつから何を始めればいいんだろう…」と困っていませんか? フォニム スタディは、国内最大級のオンライン音楽教室がお届けする、予備校通学なしでスマホから音大受験対策がはじめられる講座です。 圧倒的にわかりやすい映像授業だけでなく、トップ音大卒・在籍のコーチが、心強いアドバイスや勉強計画であなたの受験準備をサポートします。