佐藤采香さん

2018-06-03

香川県出身で、この春に東京芸術大学大学院、音楽研究科のユーフォニアム専攻を修了された佐藤さん。受験体験談からはじまったインタビューですが、お話は予想以上に深いところへ...

芸大を受験されたきっかけを教えてください。

早くから漠然と意識はしていました。中学生のころからです。ユーフォニアム自体は小学3年生の部活ではじめました。その後、小学5年生の時に、スティーブン・ミードさんという世界的ユーフォニアム奏者の方の演奏を聞く機会があって、その時に、ミードさんみたいな世界一のユーフォニアム奏者になろうと思ったんです。あとは、ユーフォニアムとは全然関係ないのですが、山口百恵さんにも大きく影響を受けています。アイドル界のトップスターになり、全盛期真っ只中、結婚を機に引退される、という生き方ががかっこいいなと思って。だから私もユーフォニアムでトップになって、そしてやめる、という生き方をしたいと思いました。そのためにまずは、香川県のコンクールで1位をとる、その次は全国の高校生の中で1番になる、そういう手順を踏んで受験生の中で1番上手になれば、日本一の音大に受かるだろうと思って、芸大を受けました。

その思い描いたルートは辿ることができましたか?

高校3年生の時は、タイミングが合わずコンクールを受けることができなかったのですが、高校2年生の終わりに受けたコンクールでは、全国で1位なしの2位を受賞することができました。そして、芸大にもストレートで入学しました。

相当練習されましたか?

そうですね。高校生の思い出は、ずっと楽器を吹いていたことですね。朝の7時から学校に入れたので、その時間に登校してホールの鍵をあけて、練習をして、3時間目と4時間目の間に早弁をして、お昼休みも練習時間にあてて...放課後の部活の時間では個人の練習ができないので、夕方6時までは部活、その後は先生が帰るまで学校に残って自分の練習をする、という日々を送っていました。友達ともほとんど遊んでいません。

でも一人だけ、自分と同じくらい真剣に音楽を志す友人がいて、その人とは仲が良かったです。私が高校2年生の時に浜松で開催された「国際管楽器アカデミー」には、二人で一緒に行きました。日本の音大生を対象に、世界で活躍されている管楽器奏者の方々が講師となって指導をしてくださるイベントなのですが、先生方が要求していることは本当に素晴らしかったです。自分の想像をこえる指摘がたくさんありました。

一方で、もともとこのアカデミーを見学に行った理由は音大生の実力を知るためだったのですが、正直拍子抜けしました。もちろん皆さん上手なのですが、自分があの人達と同じ年齢になった時には、もっと上手になっているだろうな、という希望や指標、目安を持ちました。周りの実力を知るための情報収集は、他にも自分から積極的に行いました。都内の音大でユーフォニアムのコンサートがあることを知った時は、東京でのレッスンとコンサートの日程をうまく調整して足を運びました。楽しむのではなく、勉強として。「わぁすごい。」じゃなくて「なるほどね。」みたいな、そういう面持ちでいるのは大事なことだなと思っていました。

濃密な高校生活ですね。

はい。県内には2つ、音楽科のある高校があったのですが、あえて競争の激しそうな高校を選びました。もう一方の高校はみんなが楽しそうで、それはちょっと違うかなと思って。

ちなみに中学生の時は果てしなく下手くそだったので、このままじゃだめだといつも思っていました。プロの方のCDを聞いては悲しみしか感じなかったので、毎晩、好きな奏者の方のCDを聞いて、明日にはこの人みたいな演奏になってる、という願いをこめて寝ていました。次の日に起きて自分の演奏を聞いてまた絶望するんですけど(笑)。でも日に日に自分の変化が感じられるので、そういう意味ではつらくなはかったです。

挫折を味わったことなどありますか?

香川県内のコンクールですが、中学3年生の時は1位を取れたのに、高校1年生の時に、1、2位なしの3位という結果に終わってしまったことがあります。その時はショックすぎて、人生終わったなと思いました。

事実上の優勝なのに、そこまでショックだったんですね。

はい。でも1ヶ月後にまた別のコンクールがあって、そこに向けて練習を重ねている時に、自分の思いと、出している音が繋がる瞬間を感じるようになりました。部活などで細部まで指導してもらえば、いい音楽はできるのかもしれません。でも、楽器の吹き方を教えてもらって、音符の読み方を教わるだけだと、思いと音が繋がらない。作業になってしまいます。音に対しては敏感でした。一つの音を紡いでいく感覚、そこに音楽的意思が入る。自分が楽器を演奏して、音楽にしていく。自分だけの楽器で、自分だけの音楽、ということを考えるようになりました。そうしたら楽しくなってきたんです。それまでは修行のような感覚でしたが、コンクールでの挫折を機に、修行の中に喜びを見出すようになりました。

少し話は戻りますが、どうしてユーフォニアムを?

本当はトランペットがやりたかったんです。ただ、ユーフォニアムは希望者が少なかったので、先生はわがままじゃなさそうな私にユーフォニアムを勧めたのだと思います。実際、当時の私は自分の言葉で意見が言えない子でした。それが変わったのは、楽器のおかげです。楽器が無いと、友達や先生とうまく話せませんでした。緊張して、気を使ってしまって。楽器は、ある意味では言葉以上に、思っていることを伝えやすい、描きやすい表現の手段だと思います。楽器を通してなら、自分の思いを外に出すということが徐々にできるようになってきて、それをきっかけに、最終的には言葉を通して他人に自分の意見を伝えられるようになりました。

楽器を通して思いを伝える、ですか。

はい。そういえば高校2年生の時に、本当にキツいレッスンがありました。関東で活躍されている方、主にN響の方を講師に招く講義があったのですが、その時にいらしたトロンボーン奏者の方のレッスンが本当に怖かったんです。ホールでのレッスンだったのですが、「お客様に音のメッセージが届かなければ意味が無いんだ。」と言って、おもむろに客席に行くと、いきなり「どうぞ」と言われました。そして演奏を始めると、最初の4小節で、「届かない。」と中断され、50分のレッスンのうち、これを45分間繰り返しました。泣きそうになりながら、最後の5分は、「もうこれ以上吹けない!」という思いで全力で吹いたら、「それだよ。」と言ってもらえたのですが、正直なところ、こんなにやらなきゃいけないの!?と思いました(笑)。心、魂をこめるなんてもんじゃなかった。死ぬかと思いました。すべてを凝縮したものが楽器に入って、客席に飛んでいく、念じきる、みたいな感覚。ここまで込めないとお客様には届かないなんて、楽器を演奏することつらすぎません?って思いました。それ以来180度演奏が変わりました。それまでは、音は綺麗だったのですが、あたりさわりのない演奏しかしてこなかったので、そこからは本当に全力で演奏するようになりました。

死ぬ気で吹く...すごいですね。

でも、芸大に死ぬ気で吹いてる人がいたんです。サックスの方なのですが、初めて彼の演奏を聞いた時に、この後死んじゃうんじゃないかって思いました。それくらい全身を使って演奏していたんです。こういう人がいるんだと、気が引き締まりました。自分も同じ思いで吹いていたので、良い出会いでした。

芸大だとそういう出会いが多いですか?

多いです。みんな上手すぎます。夢のある会話ができるので楽しいですよ。「俺あのコンクールで優勝してみんなに焼き肉おごるわ。」みたいな(笑)。

でもユーフォニアムは社会の需要的にも低い楽器だからなのか、芸大の中で地位が低くて、だから自分が芸大の誰よりも上手になったら、誰も見下さないだろうと思って頑張ってきました。みんなに認めてもらうには、学外の権威あるコンクールで良い成績をとらなければいけないと思い、国際コンクールでは2位を、日本では一昨年に、1位をいただくことができました。来年は6、7年に1度しか開かれない大きなコンクールがあるので、そこで1位を取ります。

ん!?

1位を取ります。

断言しましたね!

はい(笑)。

(その後、佐藤さんは本当に優勝されました。おめでとうございます!!)

演奏の際は、どのようなことを心がけていますか?

音楽は、自分ですべてを作り出すことはできないと考えています。音が導いてくれる、みたいな。自分でこうしよう、と考える部分よりも、自然に任せたほうが、聞き手も演奏する側も一番いい方向へ進んでいけると思います。こう思うようになったのは大学に入ってからかもしれません。だから、先生の指導でねじまげられることもあると思っていて...その結果、大学4年生頃から先生とのレッスンがうまくいかなくて、毎回喧嘩をしていました。もちろん先生の指示された通りに直すことはできますが、それはなんだか違うなって。

でも先生のことは本当に尊敬しています。音が本当に自由なんです。楽器から出てきた音が、まるで一人の人格を持っているかのように描かれていく。たまげたんですよ。先生がお父さんで、音はその子供たち、先生の周りで音が遊んでいるように感じました。意思で演奏するのと、音に任せるのでは全然違います。私もそうありたいです。自分の手を離れた音を出したい。今は、自分の手の中に音がある感じがします。それだとつまらない。もっと夢のある音を出したいです。

その目標にむけて、どのようなことをされていく予定ですか?

「こうしなさい。」と言われて直すのは違うと思っているので、今後は自分の知らないことを、資料として集めていくつもりです。今の自分の演奏は、自分の想像の範囲から出ていないと思います。小学生の時からずっと、自分の知らないところに行くために練習を重ねてきました。とにかく自分のできる範囲を超えたくて。実は今はレッスンを受けていないのですが、それもあって、自分の演奏が想像できる範囲の中でしかないと感じています。なので、留学しようと考えています。大好きな先生がいるんです。その先生はまさに、音楽物知り博士なので、その先生のもとで、自分の知らないものを取り入れたいです。日本人じゃない人って、想像できないところにいるんです。たとえどんなに技術が劣っていても、予想もできない表現をしたりします。

これから音大を受験する方々にむけて、メッセージをお願いします。

全部が糧だと思います。あらゆる事象をどれだけ自分の栄養にできるか。人とのご縁や今の練習時間をいいものにする、というのは、完全に自分次第です。習う先生や通う学校を決めるのは、結局は全部自分なので。どこの音大に行ってもいいと思います。大事なのは、自分が何をやりたいか。それにつきます。

*カリキュラムや入試に関する内容は、当時の内容となっております。具体的な試験内容など、公式の受験要項を必ずご確認いただきますよう、お願いいたします。
佐藤 采香(さとう あやか)

1992年香川県高松市出身。高松第一高等学校音楽科を経て東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。同大学院音楽研究科修士課程在修了。ぱんだウインドオーケストラ ユーフォニアム奏者。これまでにユーフォニアムを船橋康志、村山修一、齋藤充、露木薫の各氏に師事。第9回チェジュ国際金管打楽器コンクール2位、第32回日本管打楽器コンクール第1位。ソリストとしてこれまでに東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京藝大ウィンドオーケストラ、瀬戸フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団と共演。平成28年度香川県芸術文化新人賞受賞。

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