竹内理恵さん

2018-06-10

今回は、東京芸術大学の器楽科サックス専攻を卒業し、現在は「海藻姉妹」のメンバーとして活躍されている竹内さんに、受験のことや現在の活動について、お話をうかがいました。

東京芸術大学を受験されたきっかけを教えてください。

中学のころから吹奏楽部でサックスを始めたのですが、楽しかったので、もっとちゃんと勉強したいと思いました。進路として芸大を考え、本格的に受験の準備を始めたのは高校1年生の時です。サックスはポピュラーな音楽で使用されることが主流の楽器ですが、音楽の根底はクラシックだと思っていたので、サックスもクラシックも勉強したいと考えた時に、間にあるのが、サックスで東京芸術大学に入ることかなと思いました。

高校1年生で芸大を意識したということは、高校は普通科ですか?

そうです。周りには芸大を目指す人はいませんでした。普通科の女子高で、周りはみんな勉強している中、私は好きな事をすればいいかなと思っていました。私は、「みんなで頑張る」とか「あの子に負けない」というモチベーションでやる気が出るタイプではなくて、ほっといてほしいタイプだったので、普通科で良かったと思います。一人で集中できたので、自分の演奏と自分のレベルに落ち着いて向き合うことができました。あまり寂しいとは思いませんでした。マイペースに過ごせてよかったです。逆に、音高へ進学していたら、自分には合わなかったと思います。結局、準備が間に合わなくて芸大受験は1度落ちているのですが、浪人期間中も、周りの受験生とコンタクトを取るわけでもなく、家で黙々と準備をしていました。それが自分にとってはベストな方法でした。両親はアマチュアで音楽をずっとやっていることもあり、ミュージシャンは食べていけない、どうするのか、と心配されましたが、頑張る意思を伝えたところ、応援してくれました。今でも応援してくれています。

ご両親はどんな音楽をされているのですか?

母が歌と作詞作曲を、主にポピュラー系ですね。ここ10年ほどはモンゴルの民族音楽にも取り組んでいて、私も先日モンゴルへ行って角笛を吹いてきました(笑)。

父はエレキベースです。ロックやカントリーよりのジャンルでバンド活動をしています。

その父のロックバンドにサックス奏者の方がいたり、実は私の叔父もプロのジャズプレイヤーだったこともあって、サックスを見慣れていたんだと思います。だから中学の吹奏楽部では、ジャズで使うテナーサックスを選びました。

芸大を意識してから、まずは何をしましたか?

私はテナーサックスしか持っていなかったのですが、実は芸大はアルトサックスでしか受験ができないんです。なのでまずは楽器を買うところからでした。アルトサックスは音は出せたのですが、テナーサックスとは吹き方が違うので、ほぼゼロからのスタートでした。でもそんなに大変とは感じませんでした。楽しかったです。

サックスの先生はどうやって探されましたか?

高校の音楽の先生の息子さんが芸大を卒業されたばかりの方で、その息子さんの知り合いのサックス奏者の方をご紹介していただきました。最終的にはその先生の先生にも指導していただいたりと、いろいろな方にレッスンしていただきました。

芸大受験はどうでしたか?

めちゃくちゃ緊張しましたが、演奏の出来にはそれほど影響しませんでした。試験前の音出し部屋の方が緊張のピークでした。何人も周りにいる中で練習をするという環境に慣れていなかったので。なのでひたすらイヤホンでサンボマスターを聞いていました。音出し時間は15分あるのですが、ずっと吹いていても疲れてしまうので、リラックスしようと思って。

それに吹きすぎると、リードが湿気を吸ってダメになってしまいます。受験のシーズンは冬の暖房器具などで部屋がとても乾燥しているので、調節するのが大変でした。

緊張が演奏の出来に影響しないのはすごいですね。

吹奏楽部でのソロパートの演奏や、両親の演奏活動によく駆り出されていたことで、人前で演奏する場数を踏むことができていたんだと思います。

逆に、受験準備で苦労したことなどはありますか?

基本的に嫌なことは忘れてしまうので、苦労したことがあまり思い出せなくて(笑)。

1度目に落ちた時も挫折感などはありませんでした。一次試験を通過した時点でかなり嬉しかったので。だから落ちた時も、ああ惜しかったな、くらいにしか思わなかったです。

強いて言えば、合格発表までの期間でしょうか。最終試験から発表までの1週間がとても長く感じました。さらにその年は、ちょうど3.11のあった年でした。あの時は本当につらくて、もう二度と受験をしたくないと思いました。幸いなことに、家族や知り合いには直接的な影響はありませんでしたが、自分はやれる時に頑張らないといけないと思いました。

芸大に入って良かったことはなんですか?

他の音楽大学では、サックス専攻の方の人数がとても多いので、そういう環境では自分は埋もれてしまったと思います。また、他の科、他のジャンルの素晴らしい方々と一緒に過ごすことで、耳が育ちました。それは芸大でなければできなかったと思います。

竹内さんが「こんぶ」として所属されているユニット「海藻姉妹」について教えてください。

2013年に結成したので、今年で丸4年になります。リーダーのわかめさんに、「楽しいことをやろう!」と誘っていただきました。わかめさんは芸大時代からずっとカルテットなどでご一緒していた先輩です。カルテットほどの音量を出せない環境で演奏しなければいけない機会があって、そこで作曲科の方にお声掛けして、「めかぶになって。」とお願いし、海藻姉妹が誕生しました。

まずは、台東区谷中にある「さんさき坂カフェ」でわかめさんがバイトをしていたご縁で、そこで演奏会を徐々にするようになり、常連のお客様からああでもないこうでもないとアドバイスをいただきました。ホームグラウンド的な場所として、今でもそこで演奏活動をしています。土地の応援を感じますね。

大きな転機は、千代田芸術祭2013音部門にて岸野雄一賞をいただいたことです。中学校を改装したスペースで毎年行われる美術のコンクールなのですが、音の部門をつくるということで、その第一回目に参加しました。そこで岸野雄一さんに賞をいただいたご縁で、スカラシップ公演や、CD制作をしてくださいました。さらにそのスカラシップ公演に、いとうせいこうさんも来てくださっていたんです。せいこうさんのご紹介で、テレビ番組の「関ジャム」でも取り上げていただきました。

芸大出身でこういうジャンルは珍しいのでしょうか?

そうですね。未だに自分達がどういうジャンルに属するのかがわからないのですが(笑)。子供からお年寄りの方まで、いろいろな人に聞いていただいている印象です。ありがたいです。

私自身、今の演奏スタイルは受験時とは全然違います。卒業をきっかけに変わりました。それまでは、芸大内の試験にむけて、しっかりした曲、しっかりした型がいると思っていたので、先生に指導された和声だとか、フレージングとか、そういうことを意識して演奏していました。でも卒業をしたら、何をしてもいいのかな?と思うようになりました。聞いている人に楽しんでもらうためには、ということに専念できるようになって、いい意味で解放されたと思います。目指すものが変わりました。

話は少し変わりますが...竹内さんといえば、以前までされていたおかっぱのヘアスタイルが大変印象的でした。

芸大受験にむけて、耳上のおかっぱにしました。高校2年生くらいの時です。素敵な人が沢山いる中で、自分を覚えてもらうにはどうしたらいいんだろう、自分に一番合っていて、覚えてもらうためには...と思いまして。ビジュアルから入るところがズレてますよね。和顔だしこんなキャラクターなので、おかっぱで攻めるしかないと思いました。周りからはすごく心配されましたが(笑)。髪型、ビジュアルで覚えてもらいたい、というのはずっとありました。

海藻姉妹の衣装も素敵ですよね。

作ってもらったんです。私の高校時代の友人は美大を出ているのですが、その子の知人に、テキスタイルの勉強をしているデザイナーの方がいて、ぜひ衣装をデザインしたいと言ってくださったんです。ちなみに高校時代の友人は今はデザイナーとして折り紙を作っていて、未だに海藻姉妹の活動に協力してくれます。そういう意味でも、やっぱり普通科の高校に通ってよかったなと思います。

今後の目標や課題があれば教えてください。

スタジオ版のCDを出したいです。あとは、その時その時で一生懸命やりたいな、くらいにしか考えていません。いい意味で「なるようになれ」と思っています。今の活動が楽しいので、海藻姉妹での活動は崩さずに、信念だけはもって、なんでもやってみたいと思っています。いろいろなことが漠然としているので、こんなんでいいのかな、とも最近は思っていますが(笑)。

これから音大受験を考えている方々へ、メッセージをお願いします。

音大に入れても入れなくても、その時とにかく一生懸命取り組めば、何かは身になります。基本は楽しんで、もちろん楽しくないこともしっかりやりつつ、そこはバランスよく取り組んで...それが合格か不合格を決めると思うので、自分に合った方法をいろいろな人に相談して、自分がどうやって音楽を続けていくのが正しいのかを考えていけば、「音大に行かなければよかったな。」なんて思わないで済むと思います。音大に行くだけが成功ではないと思うし。自分は音大にどうしても入りたいのか、ただ音楽を続けたいのか、楽しみたいのか...音楽とどういうふうに向き合うのが自分の中で一番いいのかを考えて勉強をはじめるといいと思いますが、一生懸命やるのであれば、見切り発車的にはじめてみるのもいいと思います。

順位とかも気にしない方がいいですね。私は芸大に入るまでコンクールなどで賞をとったことがありませんでした。周りのみんなは、登竜門的なコンクールで当然顔見知り、みたいな感じだったので、私は「この子だれ!?」と入学当初は思われていました。でも音大に入ってからもコンクールを受ける機会はありますし、マイペースに頑張ればいいと思います。

*カリキュラムや入試に関する内容は、当時の内容となっております。具体的な試験内容など、公式の受験要項を必ずご確認いただきますよう、お願いいたします。
竹内 理恵(たけうち りえ)

東京都出身。東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。Singapore Woodwind Festival2014 Conpetitionサクソフォーン部門第1位。第12回日本サクソフォーン協会新人演奏会に出演。所属ユニット「海藻姉妹」として2015年9月に初のライブDVD+CD「海底演奏会実況盤(OutOneDisc)」を発売。これまでサクソフォーンを作田聖美、宗貞啓二、冨岡和男、原博巳、須川展也の各氏に、また室内楽を林田祐和、貝沼拓実、大城正司の各氏に師事。

海藻姉妹

わかめ、こんぶ、めかぶ、からなるユニット。わかめとこんぶはサクソフォンを、めかぶは鍵盤楽器を演奏。千代田芸術祭2013音部門において、岸野雄一賞を受賞。2014年12月に3331 Arts Chiyodaにて行われたワンマン2Daysは大成功に終わる。第8回下町コメディ映画祭「ビートたけしリスペクトライブ」に出演。第68回さっぽろ雪まつり×札幌国際芸術祭2017『トット商店街』で音楽を担当。2015年9月にCD&DVD「海底演奏会実況盤」をoutonediscよりリリース。現代音楽から祭り囃子、昭和レトロまでを軽々と横断する超絶技巧のユニット。

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