
第3回 気軽にオペラシリーズ《セビリアの理髪師》
2018-07-23
こんにちは。
音大ナビ公式ライター、本多都です。
前回、「もっと気軽にオペラを見に行ってほしい!!」という思いから、「気軽にオペラシリーズ」と命名し、ひたすらツッコミを入れながらオペラ《コジ・ファン・トゥッテ》をご紹介させていただきました。
今回はその第二弾ということで、ロッシーニのオペラ《セビリアの理髪師》を取り上げたいと思います!
ロッシーニ作曲
《セビリアの理髪師》
舞台は18世紀、スペイン、セビリア。医者のバルトロ邸のある街の広場にて。
夜明け前のシーンからこのオペラは始まります。
そこへ、様々な楽器の奏者たちを引き連れたフィオレッロが登場し、「静かに...超静かに...」と歌います。
もうね、この時点で「いや自分歌ってるやん」という感じですが、まあそこはギリギリ許します。
しかしそれに続いて楽隊の皆様も「静かに...超静かに...」と続けてしまうのです。
かなりの大人数ですよ!いくら小声でもダメです。静かにする気が微塵も感じられません。
...なーんて厳しいことを書きましたが、静かに移動する時の「そろーり...そろーり...」というニュアンスが、実は音楽で絶妙に表現されています。
最後は、フィオレッロの主であるアルマヴィーヴァ伯爵も登場し、首尾を確認、「静かに...超静かに...」と繰り返します。
これね...フィオレッロがバリトンであるのに対して伯爵はテノールのため、高い声が響きやすいのなんの!誰よりも声が響き渡ってしまっています。静かにする気ないですよね?
そして楽器隊の準備が整い、伴奏が始まり(伴奏...?)その音楽に乗せて、伯爵が歌いだします。いや歌うんかーい!あれだけ静かにした意味!!
アピール方法のスケールが大きい
バルトロ邸の窓に向かって歌いますのは、愛のセレナーデ。そう、アルマヴィーヴァ伯爵は、このバルトロ邸に住んでいるロジーナという女性に恋をしているのです。
好きな人へ愛を伝えるために夜明け前に楽器隊を引き連れて歌を歌いに来るって...え、すごすぎません?(むしろちょっとドン引ry)
しかしロジーナは出てきません。
実はロジーナという女性は、両親を亡くした孤児であり、医者のバルトロはそんなロジーナの後見人なのです。バルトロはロジーナに残された遺産を目当てに(しかもロジーナ自身も可愛いので)、彼女と結婚することを目論んでいます。なんと...!
そのため、他の男が言い寄らないように監視しているのです。
フィガロ登場
ひとまず楽器隊に報酬を渡して帰らせ、さてどうしたものかと伯爵が悩んでいると、とっても有名なイントロが聞こえてきます。たいていの人は、この曲は「トムとジェリー」で履修済みだと思います。(劇場でトムがオペラを歌うエピソード、ご存じないですか?歌詞の中に何度も♪ララララララやフィガロフィガロと出てくるあの曲です。)そうです、このセビリアの理髪師であり、何でも屋である(そしてオペラのタイトルでもある)フィガロの登場です。
実はフィガロはもともとアルマヴィーヴァ伯爵に仕えていたため、二人は知り合いでした。
伯爵はフィガロにロジーナのことを相談すると、なんとフィガロはバルトロ邸に出入りしている理髪師であることが発覚します。伯爵、なんという強運の持ち主...!
ヒロインも登場
フィガロと伯爵が話していると、ついにバルコニーの窓が開き、ロジーナが登場します。
しかし残念、バルトロも出てきます。
ロジーナが持つ伯爵への手紙を見たバルトロは「それはなんだ?」と尋ねますが、ロジーナは「これはアリアの歌詞です。」と嘘をつきます。そしてそれを、手が滑ったふりをしてバルコニーから落とし、バルトロに拾いに行かせるのです。バルトロが階段を下りている隙に、外にいる伯爵に手紙を拾わせることに成功します。あ...頭よい~!
手紙には「身分と名前を教えて」と書かれていました。伯爵は、富や称号ではなく自分自身を愛してほしいという思いから、貧しい学生リンドーロだと名乗ることにします。
ちなみに伯爵、オペラ冒頭で歌ったセレナーデとは違い、今度はスペイン風に、情熱的に名乗りの歌を歌います。音楽の引き出しが多い人って魅力的です...!
お金の力すごい
さて、バルトロという障害を乗り越えて、なんとかしてロジーナと会いたい伯爵。貴族ですので、フィガロへの報酬はいくらでも用意することができます。それに大喜びのフィガロは、頭の中にどんどんアイデアが浮かびます。そのアイデアについては後述といたしましょう。とにかく二人は大いに盛り上がり、伯爵はロジーナのことを、フィガロはお金のことを思いながら、その場は分かれます。
ヒロインお披露目タイム
さて、場面は変わり、ここはロジーナの部屋。ロジーナの初登場シーンは先ほど終わりましたが、なんとこのオペラのプリマ・ドンナであるにもかかわらず、前述のシーンではロジーナが一人で歌うシーンが無いのです!これはこの作品の公開当初、なかなかに衝撃的だったそうです。
そこで、遅くはなりましたが、いよいよロジーナのアリア、独唱タイムがここに挿入されています。〈今の歌声は〉の邦題でお馴染みの曲ですので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。ロジーナの可愛らしさと賢さ、そして強さが現れている素敵なナンバーです。
そしてこのシーンで、ロジーナは再びリンドーロへの手紙をしたためます。この手紙、後々重要なアイテムとなってきますので、よく覚えておいてください!
さて、ロジーナが手紙を書き終えたところへ、フィガロが現れます。リンドーロとの件で打ち合わせをするためにやってきたのですが、そこへバルトロも帰宅してきたのでさあ大変!慌ててフィガロは隠れます。
バルトロがロジーナに「理髪師(フィガロのこと)に会ったのか?」と聞いてくるのがウザったいロジーナは、「会いました!フィガロさんって素敵ですね、私好きです!」と半ギレで言い残し、その場から去ります。(強い)
一人になったバルトロは、ロジーナとフィガロが実際に会っていたかどうかを確認するため、召使を呼びつけます。が、登場した二人の召使は、一人はあくびが止まらず、もう一人はクシャミが止まらないという、まったく使えない状態でした。(どうもこれはフィガロが与えた薬のせいらしいのです。え、薬で眠くさせたりクシャミを止まらなくさせるのは、さすがにやりすぎではフィガロさん。)
陰口は最強?
使えない召使を引き上げさせたバルトロのもとへ、ロジーナの音楽教師であるドン・バジイロがやってきます。バジリオはバルトロ(二人ともバで始まるので、ごっちゃにならないよう注意!)の味方のため、バルトロとロジーナが結婚できるように協力をしているのです。そして情報通でもあるバジリオさん。今回は、アルマヴィーヴァ伯爵がロジーナを追いかけてこの街にやってきたことを、バルトロへ警告しに来たのでした。
さらに、「伯爵の悪評を広めて、世間が彼を白い目で見るように仕向けましょう!」と、バジリオの持論を展開させます。これが、〈陰口はそよ風のように〉の邦題で知られるアリアで、陰口の力と恐ろしさを歌っている歌詞は、現代社会でも十分に当てはまる内容となっています。
しかしせっかちなバルトロは、「それでは時間がかかりすぎる!」と、この提案を却下。二人は早急に、結婚契約書の作成に取り掛かるのでした。
手紙を書いてください
さて、二人のやり取りを隠れて聞いていたフィガロは、そのことをロジーナに報告します。バルトロが自分と結婚しようとしていることを知ったロジーナは、それはもう怒り心頭なのですが、フィガロがいるのでその怒りは一旦抑え、話題を変更します。「あなたがさっきバルコニーの下でご一緒していた青年はどなた?」と。
ここでのフィガロとロジーナのやり取りが結構秀逸で、(まあ悪く言えばとんだ茶番なのですが)お互いに知っている情報をわざと明かさず、知らないふりをして会話を続ける様子がなんともおかしいのです。ちょっと仲良すぎでは?
そしてフィガロは、リンドーロへの思いを手紙にしたためるようロジーナに頼みます。しかしロジーナは、恥ずかしいだの書けないだのといって渋ります。ん...?
皆さん、思い出してください。ロジーナはアリアの時、手紙を書いていませんでしたか...?
もうね、ほんとそういうとこやぞ!(褒めてます)そうやってフィガロを焦らし、最後には「はい、手紙です。」とフィガロにもともと書いてあった手紙を手渡します。これにはさすがのフィガロもビックリです。ロジーナちゃん大勝利!
バルトロ、ブチ切れタイム
フィガロが去ると、またしてもバルトロがやってきます。そして、ロジーナの指がインクで汚れていることや、便箋が1枚減っていること、羽ペンの先が削られていることなどを指摘していきます。(めざとい)
ロジーナも賢いので、一つ一つにそれなりの嘘をついて誤魔化していきますが、とうとうバルトロの堪忍袋の緒が切れ、ブチ切れアリアを歌います。
いかにも偉そうなお医者さん感たっぷりに歌いはじめ、ロジーナをどんどん追いつめていくのですが、後半は曲調が変わり、オペラ界屈指の早口パートが始まります。そのあまりの早口に、聞いているこちらが酸欠になりそうです。心なしかバルトロも苦しそう...酸欠で倒れちゃうよおじちゃん...
作戦開始
その後バルトロは去り、ロジーナも去り、誰もいなくなった舞台に、召使のベルタが現れます。ベルタがいろいろと家の仕事をしていると、外からドアを叩く音が。ドアを開けると、なんと酔っぱらった一人の兵士がバルトロ邸に押し入ってきます!大声を上げながら部屋の中をウロウロするため、何事かと慌ててバルトロもやってきます。
実はこの兵士、伯爵が変装しているのです。伯爵、酔っ払いの演技がなかなかお上手なご様子。なぜ伯爵は酔っ払いの兵士に変装しているのかというと、兵士に渡される「宿泊許可証」を使って、このバルトロ邸に泊まろうとしているからです。これがフィガロの考えた作戦だったのですね!
内心はロジーナを必死に探す、酔っぱらったフリをしている伯爵と、早くこの酔っ払いに出て行ってもらいたいバルトロとの言い争い(噛み合ってない)を聞きつけたロジーナも、何事かとやってきます。
ついにロジーナと会えた伯爵!こっそりと自分の正体を打ち明け、二人は喜びます。きゃ~
しかしバルトロの監視が厳しく、なかなか二人は思うように会話をすることができません。
その後も、バルトロは実は「宿泊許可証免除証明書」を持っていたり(なんじゃそりゃ)、伯爵がプチ乱闘騒ぎを起こしたり、その騒ぎを聞きつけた警官たちがなだれ込んできたりと、もう無茶苦茶!!吉〇新喜劇もビックリです。
乱闘騒ぎを起こしたのは確かに伯爵ですので、最初は逮捕されそうになるのですが、まあそこは伯爵ですから、隊長に身分をこっそり明かし、難を逃れます。
なぜか許された伯爵に、他のみんな(フィガロ以外)は何が起きたのかわからず、放心状態になり、1幕がここで終了します...!
いや~、
今回もすっかり長くなってしまいました。
前回の《コジ・ファン・トゥッテ》に比べると、ツッコミ量はやや少なめ?かもしれませんが、あらすじをこうして冷静になぞっていくと、やっぱり面白いオペラだなとつくづく感じました。読んでいて実際に舞台を見てみたくなるような、そんな文章を心掛けてみたのですがいかがでしたでしょうか...?
次回は第2幕、後半戦です。
バルトロという障壁を乗り越え、ロジーナと伯爵の恋は成就するのでしょうか?
お楽しみに!