西垣林太郎さん
2018-10-26
今回ご紹介するのは、撥弦楽器演奏家の西垣林太郎さんです。
西垣さんはご専門のギターはもちろん様々な撥弦楽器を演奏されており、なんと正倉院宝物復元四絃・五絃琵琶の演奏もなさっています。
しかしこれで驚くことなかれ!
西垣さんは数学にも精通していらっしゃるんです。岩波データサイエンスの刊行委員会にも入っているとのこと。
そんな西垣さんに我々はインタビューを敢行し、そのバイタリティを目の当たりにしてまいりました。
あまりに濃密な内容でしたので、前・後編でお届けいたします。
前編となる今回は、数学ついてと正倉院での復元琵琶演奏について。
キレキレな頭脳とは対照的に温和でほっとするようなお人柄の西垣さん。素敵なスタジオで音楽と数学の深い深い世界についてお話しして下さいました。
まず西垣さんが資料として見せて下さったのは雑誌『科学』と、『岩波データサイエンス』(全6巻)、そして読売新聞の記事でした。
以前執筆された記事、雑誌『科学』(岩波書店・2017年)「正倉院の古楽――天平琵琶譜を復元琵琶で弾く」について、この記事はどのような繋がりでお書きになりましたか?
「岩波データサイエンス」の刊行委員会を2年間ほどしていまして、そのご縁でお話をいただいたのかもしれないです。
実は「岩波データサイエンス」は、元々はもうちょっと大衆的な内容の『科学』に近いようなシリーズを予定してたんです。ただ、色々練ってるうちになぜか、こういう内容(データサイエンスについて)になって。それでも引き続き原稿を読む仕事などをさせてもらいました。
どのようなご縁があったのでしょうか。
私自身は、昔から数学が好きだったのですが、なぜか音楽の方に進んでしまって、でも数式にアレルギーとかはなくて。たまたま文章も少しだけ読めて、雑多な色んなことに手を出してるので…そういった数学や統計の原稿を読む仕事というのに、少し役に立てたらなあと思いました。
この岩波データサイエンスは、全6巻が終了しました。
すっ凄いですね…!
有難うございます(笑)
データサイエンスといっても、特定のジャンルというよりは手法のことなので、扱うものは言語をはじめとして色んなことについて書いてありますよ。
音楽についてもこういった手法が用いられることがあります。楽曲のジャンル分けとか、類似性を探したりとか。
西垣さんは「音楽と科学」というテーマでイベントもなさっていると伺いました。
そうですね。例えば学校とかに講演で行って、音楽と科学の接点について、演奏を交えてお話したりしています。
講演はどのような内容ですか?
ひと口に「音楽と科学」というとかなり大きい話になってしまうので…共有点に絞ってお話をしています、メルセンヌ・ガリレイ親子・ケプラーなど、共通する名前を軸に、演奏も交えながら1、2時間にまとめています。
その講演の対象はどのような方だったのでしょうか?
その時は一般の高校生でしたが、例えば「ケプラーとニュートンどっちが先か」と聞くと正しい答えが返ってきたりするんですよ。音楽や科学に興味のない子にも、少しでも好きになるきっかけになればいいな思います。
高校生のときから交流がある方で、当時は数学オリンピックで活躍し、現在はジャズピアニストとして活躍されている中島さち子さんという方が、数学と音楽の両方をテーマに幅広く活動されています。
話は変わりますが、西垣さんは記譜法についても研究をされているのですか?
指で弾く撥弦楽器というのをやっていると、古い楽譜に触れる機会があります。
例えばタブラチュア譜は今でも使われていますが、当時の演奏習慣とかを知っていないと演奏できないんです。
(楽譜を見せてもらう)
これは16世紀のタブラチュア譜で、現代のもの(タブラチュア)とは弦が上下逆になってるんですけど。
6線の上に書いてある記号は何ですか?
リズムです。
タブラチュア譜の6線の中にリズムを書き込むとぐちゃぐちゃになってしまうし、当時の活版印刷には音とリズムを別に記すこの方法が適していたんでしょうね。
2015年の読売新聞関西版の一面、「正倉院の響き」の模様について、この時の楽譜はどのような物でしたか?
この時は漢字譜を読み取って演奏しました。
問題になったのは調弦で、この楽曲を演奏できる調弦が2通りあったんですよね。
これは8世紀の楽譜なのですが、分析のために後の時代の楽譜と比較するにも、時代の間隔が空いていて、連続性とか関連性の議論もあって…。
さらに演奏の編成も違うかもしれません。ソロで弾くだけの楽譜だったのか、これを元にアンサンブルをすることがある程度前提となっているのか分からないんです。
先ほどのような500年前のヨーロッパの曲なら資料もあるけれど、1200-1300年前の日本の曲だと演奏習慣とかのことは分からないことだらけで…議論もなんだか雲をつかむような感じで…。
まだまだ謎が多いところですね。「当時はどうだったんだろう」と毎回、自問自答しながら弾いています。
(後編へつづく...)
西垣 林太郎(にしがき りんたろう)
幼少の頃より演奏を始め、全国コンクールにて、ソロ、デュオで多くの賞を得た後、演奏活動を行う。甲陽学院高等学校卒業後、フランス国立ニース地方音楽院に留学。アコ・イトウ、アンリ・ドリニに師事。フランス、イタリア各地で演奏活動を行う。音楽学校講師、各地の音楽学校での招待演奏、音楽学校学年末試験審査員などに従事。
帰国後は、室内楽、オーケストラ、ジャズコンボ、古楽アンサンブルなどの多彩な編成で時代・ジャンルの枠を超えた演奏活動を展開。モダンのクラシカルギター、ロマンティックギター、バロックギター、ルネサンスギターといった4種類のギターの演奏にレクチャーを交えた「ギターの歴史コンサート」シリーズを行なう。また、「音楽史と科学史の接点」や「楽譜の歴史」などをテーマにしたレクチャーコンサートを各地で行なっている。ギター以外の他の撥弦楽器の演奏にも取り組み、正倉院宝物復元四絃・五絃琵琶を演奏。「正倉院の響き」、「千年の響き」、「コンサートジェネシス」の各シリーズに出演。天平琵琶譜「番假崇」、舞楽「蘭陵王」などの伝統音楽の他、一柳慧、石井眞木、三輪眞弘、シュトックハウゼンなど現代を代表する作曲家による琵琶を含むアンサンブル曲を演奏。2010年正倉院展用音声ガイドの五絃琵琶の演奏・作曲を手がけ、奈良、岡山、愛知、三重、滋賀などの公演で演奏、京都国立博物館音声ガイドにも用いられる。2015年の「正倉院の響き」の模様を読売新聞関西版の一面に、演奏動画を読売オンラインに掲載される。岩波データサイエンス刊行委員会メンバー。